俺は再就職する
俺は明日再就職する。
色々な事情で出勤日がずれ込んで明日になったのは少し運命的だ。
2ヶ月前に俺が出勤するのを辞めた日も16日だったからだ。
別に前の会社で嫌な事があったわけじゃない。でも良い事も何もなかった。
嫌いな奴は居たけど好きな奴は居なかった。
単純に“面白くなかった”。
元々俺は仕事に面白さを求める人間だった。
前の会社だって最初は面白い仕事だと思って入社したんだ。
他の奴より仕事が速い自分が誇らしかったし、誰よりも丁寧な仕事を心がけていた。
しかし気づけば時間と金を交換するだけの退屈な時間を過ごす日々になっていた。
努力する事を辞めたし、同僚からの評価を一切気にしなくなった。
仕事を辞めるのは面白いと思った。
9年5ヶ月。
高校を卒業してからずっと働いてきた会社をいきなり辞めて全く知らない分野の仕事に就くとは誰も思わなかっただろう。
だって俺自身が今まで思いつかなかったんだから。
いつもの作業着とは違う格好で働く自分の姿を想像しただけでワクワクした。
知らない世界に飛び込む恐怖より新しいことに挑戦する好奇心のほうが圧倒的に強かった。
保険証と作業着を返却するために最後に会社へ行った日、定年を過ぎて再雇用で働いていた爺さんが退職した日の事を思い出した。
その爺さんは毎日会社の門を出る時に振り返ってペコリと一礼してから帰路につくのを日課にしていた。
俺はそれを見て気色が悪いと思ったが、同時にそこまで自分の働いている会社に敬意を持てる事を凄いと思っていた。
爺さんは当然退職日にも会社に向かって一礼してから帰っていった。
俺はそれを見て自分が退職する日はどんな気持ちになるんだろうかと漠然とした疑問を感じたんだ。
そしてその日が俺にもやってきた。
あの日抱いた疑問の答えはすごく淡白だった。
悲しくも無いし、後悔もない。清々しくて晴れやかな気持ちでもない。
この会社は俺にとって本当に時間と金を交換するだけの装置だったんだと実感しただけだった。
無職として過ごした2ヶ月間は素晴らしい日々だった。
2018年の夏の終わりに無職でいられたことはきっと俺の人生で大きな糧になる。
知識、技術、出会った人達。
全てはパソコンとインターネットを介して起きた事。
他の人から見ればくだらない些末な出来事の集まりかもしれない。
しかし間違いなく俺は影響を受けて変わった。
明日からの俺はきっと面白い。
仕事を辞めると決めた日のワクワクが今も残っているのが証拠だ。